復讐の時代(前)

感情を厳密に仕分けして考えたことがないので、まだ、大雑把に言うことしかできないが、「過去へのこだわり、未来への不安」というふうに、もろもろの感情も細かく分けて見ると分類化できると思っている。
 例えばこだわりや不安、焦りといったものは、かなり個人的なものへの思いで発生するような気がするが、相手への「要求や強制」の気持ちから発生するものもある。

 「思うように動けない自分に苛立つ」「断れなかった自分に腹が立つ」というように、自分に意識が向かうために起きる感情もあるが、いまの時代は特に、他者に意識を向けるために起こる感情のほうが圧倒的に多い。

 他者に向かう感情にはまた、そのレベルがあって、
   苛立ち→怒り→憎しみ→恨み→無気力
というふうに、レベルが深く重くなっていく。
 霧の状態で広がっているのが、次第に雪や雹のように大粒になり、やがて積み重なって、圧縮されて塊になって、最後には崩壊していくというふうに、感情にも、星のように誕生から死までのプロセスがあるようだ。

 こんな代表的な感情を、脳の仕組みと照らし合わせて、脳幹の「勝ち負け」や「戦うか逃げるか」といった反応から推し量ると面白い。
 「自分中心」心理学では、特徴的なパターンを「詰問者・暴君者・犠牲者・諦観者」の4パターンに分けているが、このパターンを脳の仕組みに当てはめることもできる。

 これ以外の感情の、例えば自慢や追従や同情といったものなども、脳の反応から見てみると、「ああ、そうだなあ」と納得いくことが多い。
 さしずめ自慢は「勝っている」状態で、追従は「負けた気持ちで生き残ろうしている」状態。同情は「負けている気持ちでしがみつこうと必死になっている」状態というようなイメージが湧いてくる。
 
 しかしいずれにしても、こんなマイナス感情の底に居座っているのは、すべて、「脳幹」の「勝ち負け(これはパワーと所有)」、「優劣(知的レベルでの勝ち負け)」「戦うか逃げるか」といった支配関係を基準にした意識である。

 その土台が支配関係である限り、人に勝っている時であっても、「恐れ」と無縁でいることはできない。

 こんな感情はもちろん個人的なものである。が、同じ感情を抱いてる人が多ければ多いほど、個人の感情が社会全体の感情となっていく。
 だから流行や風潮や傾向や慣習などが生まれるのだろうが。

 こんな「社会全体の感情」という点から見てみると、これもまた、星の「誕生から死まで」や人間の一生にも似て、感情にも「誕生から死まで」の大きなリズムがある。(もちろん、この大きなリズムの中には、年には月があって、月には日があるように、それぞれの小さなリズムもある。)

 一昔前、今は「権力闘争」の時代だが、これが「権力闘争~復讐」の時代となって、次第に「復讐」の時代になるという話をしたことがある。
 今の年代がそうであるだろう。
 やがてこれから「復讐」の時代がピークに達して「復讐~無気力」の時代となっていき、やがて「無気力」が大勢を占める時代になる。そしてようやく、その先に、新しい誕生がやってくるのだろうか。

 もっとも私は、これを悲観的に見ているわけでない。
 人間というのは、どんなにそれは間違っていると他人から言われてようと、自分の意志を貫きたがる。自分が納得したり、とことん「もう懲り懲りだ」と実感しなければ、やめようとしない。
 それは良くも悪くも、我々は、最近よく話をしているように、結局は、「感情と意志」を優先させるからである。

 閑話休題。
 因みに最近、お札のモデルの人物に付いての話題になったとき「野口さんは暴君系。樋口さんは詰問系」という話をしたことがある。しかも側聞するところによると、お二人とも、お金の遣い方があまりうまくなかったそうな。

 よく、人間の無意識の話をするのだが、それを選ぶのにも無意識が働いている。それは現在の意識だけでなく、(今月発売になる大和出版の新刊にも書いているが)未来も暗示している。
 今後の日本はどうなるのだろう・・・(笑い)。

 そんな目でみると、日本のモデルのお札の男性は、たいてい髭が生えている。ワイルドな不精髭は個人的には好きだが、あんな権威髭は、日本のトップの方々の意識の象徴でもあるんだろうね。(つづく)