なぜ願いが叶わないのか(上)

 最近、セミナーや講演で、脳を3つの構造にわけて説明することが
多い。そのほうが、私が唱えている「自分中心」心理学を説明するの
に、分かりやすいからである。
 脳の働きは、比類無き精密さで機能していると、つくづく思う。 

 もちろん私は、脳科学の専門家ではない。門外漢の私であるので、
自分自身の感覚で語っているに過ぎないといえば過ぎない。
 例えば、脳を大きく分けると、脳幹と大脳辺縁系と大脳新皮質に分
けることができる。とりわけ私は、大脳辺縁系を重視している。それ
は、感情を司っている脳であるからだ。だから私はこれを感情脳と呼
んでいる。
 大脳新皮質は、「人間脳」と呼んでいる。

 なぜ願いが叶わないのか。
 成功法、願望達成法についての書物はたくさん出ているのに、願い
が叶わない。
「たくさん出ていることが、“叶わない”証拠ですよ。だから元々、
叶わないのが当たり前なんですよ」
 そう言ってしまえば、身も蓋も無い。

 それは、人間脳の右脳と、感情脳を混同しているからではなかろう
か。

 願望達成をイメージするのは、右脳である。
 例えば、
「幸せになりますように」
 と祈ったとする。
 そのとき、祈っている瞬間、その「幸せ」という言葉がもつイメー
ジと自分の経験から、「幸せ気分」になる。

 私の感覚でいえば、祈りは右脳的である。
 イメージでは、どんなことも想像できる。
 強盗が、「人類が幸せになりますように」と祈ることもできる。
 朝「ひと祈り」してから、強盗に出掛けることもできる。

 右脳で自分が幸せになっていることをイメージすることは、いくら
でもできる。
 大金持ちにも、仕事を成功させるにも、恋人、夫婦、親子が仲良く
やっているイメージを抱くこともできる。

 イメージで、一瞬「幸福気分」に浸れる。
 多くの本が、そんなイメージの中の幸せ気分を提供してくれる。
 極端に言えば、それは映画を観るような、つかの間の娯楽と似たよ
うなところがある。

 もっとも、
「娯楽なんだから、願いが叶わなくても、一瞬、幸せになれそうな気
分を味わえればいいんだ」
 と言われれば、「あっ、なるほど」と納得もする。
 本気で幸せになりたいというよりは、そのときの気持ち良さを味わ
うのが目標になっているのだと思った。

 それはともかく、そういう意味で、祈りは飽くまでも、右脳の世界
である。
 ところが我々は、人として生きている。
 現実には、実社会で生活している。
 この社会では、右脳だけでなく、左脳も感情脳、脳幹、その他の脳
も働いている。

 ずっと昔だが、「Xファイル」というテレビシリーズが流行ったと
き、「世界から争いがなくなりますように」と祈ったら、全ての人類
が消滅して、モルダーさん(主人公)独りが残ったという作品があっ
た。
 右脳のイメージと感情脳の感情が実現すると、こうなる。

 多くの人が恐らく、こんな矛盾を孕んだ祈り方をしているのではな
かろうか。(つづく)