「ありがとう」は、自分にけじめをつけるために言う

「ありがとう」という言葉の効用は、
・まず、「ありがとう」と、相手に言葉で伝えると、自分自身が気持ちがいい。
・もちろん、相手の心も和む。
・と同時にはそれは、自分にとって、自分の気持ちに、けじめや区切るをつけるためでもある。

 ある母親がこんなことを言っていた。
「これまで、何でも自分だけでやってきました。でも、それは、人に
協力をお願いすることができないから、一人でやろうとしていたんだ
と、先生に言われたのを思い出したんです。人に頼み事をできないの
は、自己評価が低いからだって」
 そこで彼女は、子供の学校行事に参加しなければならなくなったと
き、仕事を休むより、思い切って、パートの勤務時間を職場の人に交
替してもらえないかと頼むことにした。
 「新しい自分」に挑戦するためである。

 それはうまくいった。
 相手は気軽に「いいよ」と答えてくれた。
 彼女はあまりの呆気無さに驚いた。
「けれども、私のほうがすっきりしないんです」
 と彼女は答える。
「こんな気持ちになるんだったら、やっぱり、休んだほうが良かった
と思ってしまいました」

 どうしてだろう。
 それは、言わば、相手に借りができてしまった。借りをつくってし
まったために、今後、相手が何か頼んできたら、もう断ることができ
ないのではないか。そんな「上下関係」の卑屈な意識や、恐れがわき
起こってきたからだった。

 誰かに助けてもらったり、協力してもらったとき、それを「借り」
と考えると、却ってそれが心理的負担となる。
 これを私は「幸せになれない」感覚と呼ぶ。

 何とも言えない、そんな卑屈な気持ちを捨て去るには、どうしたら
いいのだろうか。
 こんなときこそ、
「助かりました。ありがとう」
 と、感謝の気持ちを言葉で表現しよう。
 心から「あなたに、ありがとう」。

 その言葉は、一方では、自分にこう言い聞かせる言葉でもある。
 これで、「思い」の貸し借りはありません。
 気持ちの上での「上下関係」は持ちません。
 このことで、あなたに、私の心が縛られることはありません。
 あなたに感謝しつつ「対等な関係」でいます。

 「ありがとう」という気持ちを、相手に言葉で伝えることが大切な
のは、こんなふうに自分に宣言して、自分のわだかまりを解消するた
め、区切りをつけるためでもある。