許すこと《4》 

あなたが相手を「許せない」と思っているときは、あの人の「全人
格」が嫌い、許せないという気持ちになっているのではなかろうか。
 自分の心の中が、いわばそんな嫌悪感一色で占められていると、と
に角、相手の一挙手一投足が気に入らない。そう言いたくなるだろう。
 そんなときは、改めて、あなたと相手との間で、どういうことが起
こったのか。相手と、どんな「具体的な状況」があったのか。それを
思い出してみるといい。
 本当に、その人の全てが許せないのか。それとも、その人の「行為」
が許せないのか。

 例えば、相手があなたに「ああしろ、こうしろ」と指図してくる。
 あなたは、それを嫌だと思いながらも、我慢して、相手に従ってい
る。
 これが繰り返されていくと、あなたは、相手のそんな強引な行為よ
りも、「相手の全人格」が許せないと思うほどになっている。

 では、そんな相手が、翌日から、一切あなたに「指示、命令」をし
なくなったとしたらどうだろう。
 恐らく、その人の全人格まで否定したくなるような気持ちには、な
らないだろう。

 頭の中で考えると、
「嫌、そんなことはない。相手が急にいい人になったとしても、嫌い
な奴は嫌いだ」
 という自分の気持ちは、一生変わらないように思うかも知れない。

 もしあなたがそう思うとしたら、それは、あなた自身が、相手が自
分を傷つけてきたとき、「それを自分の力で回避できない」と信じて
いるからである。

 本当は、相手の「行為の一部」をつらく感じているのだが、自分が
それを「自分の力で回避できない」と信じてると、相手を嫌う原因で
ある「行為の一部」にすら気づかないかも知れない。
 気づかなければ、自らは行動しない。あるいは、怖くて行動しない。
 相手の全人格が嫌いになるのは、こういったふうに行動しようとし
ない自分がいるからである。

 だから相手を許せなくなっているときは、その人の全てを嫌いにな
らないために、自分のほうから働きかけていってほしい。
 相手が「あなたが嫌だと思う行為」をしなくなれば、あなたが、相
手を嫌う理由がなくなる。

 相手を心の中で責めるより、自分が働きかけて、「それを回避でき
る自分」になったほうがはるかに賢い選択ではなかろうか。(続く)