無意識ってすごい(1)

「無意識の私」は、「顕在意識の私」ではとても思いつかない方法で、自分の願望を達成してくれる。

 私の友人の知り合いのAさんは、とても遠くから二時間以上時間をかけて東京に通勤している。往復では実に五時間近く。

 指定席で通勤しているとはいえ、大変である。
 余暇のほとんどは、通勤時間で潰れてしまう。

 その人は、さかんに、
「仕事を辞めたい。辞めたい」
 と愚痴をこぼす。

 けれども、なかなか辞めない。

「自分中心心理学」を学んでいる人はすぐに気づく。
「辞めたい。辞めたい」と誰か特定の人に愚痴をこぼすことで、自分の精神状態のバランスをとることができるので、“辞めない”ということを。

 愚痴をこぼす相手がいれば、ますます、「辞めたい」という愚痴で相手と関わることができるので、“辞めない”で済む。

 体調の悪さも必ず、話題にのぼる。
 これに丁寧に付き合っているのが友人のBさんだ。
 Bさんは、「アドバイス」をするのが好きだ。

 Bさんは、そのAさんを評して、こう言う。
「どんなにアドバイスしても、全然、実行しようとしないんだ」
 これも当然。
 Bさんが話し相手になってくれる。同情してくれる。友達でいてくれる。
 だから、Bさんを手放したくない。
 体調が良くなったら、話題に困るし、もしかしたらBさんが、離れて行ってしまうかも知れない、などと無意識に恐れている。

 仕事を辞めたい。
 通勤時間も長い。

「だったら、近いところで、別の仕事を探したら」
 と誰もが思う。

 けれどもAさんは、そうしない。
 体調を崩しても、そうしない。

「引っ越してきてもいいのでは」
 と言うと、
「引っ越して、一人暮らししたいんだ。でも、老いた親がいるから、できないんだ」
 
「老いた親がいるから、通勤時間を五時間もかける?」
 しかもAさんは、休日でもたびたび東京に出てくる。

 そもそも、なぜ、そこを買うことにしたのか?(つづく)