自分が“実行して示す”しかない 

 いろいろなことを学ぶと、自分が感動したことや感心したことや興味を覚えたことや、新しく学んだ知識を持ち帰って、自分の周囲の人たちにそれを伝えたくなるものです。
 けれども、心理に限っては、相手に歓迎されないことがあります。

 例えば、あなたが自分中心セミナーを学んだとします。あるいは、本などで、問題や悩みを解決する考え方や具体的な対処方法等の情報を仕入れたとします。
 あなたはそれを、相手に教えたくてたまりません。
 あなたがそうするのは、「自分の問題を解決してほしい」という親切心であるかも知れません。

 私も心理学を本格的に勉強しはじめたころ、ちょっと先輩格の人と一緒に帰るとき、道すがら、話の接ぎ穂として降った話題に対して、カウンセラーのような答え方をされて困惑したことがありました。
 そのとき私は、それをその人に、相談したいという気持ちはなかったからでした。

 何でもそうですが、自分が学ぶと、人に伝えたくなるものです。
 そんな熱心さ自体は、とても素晴らしいことですが、相手がそれを望んでいないときにアドバイスしようとしたり講釈したりすると、不評を買うでしょう。

 とりわけ自分の中に、「相手が私にそうしてほしい」という自分の思いがあって、その気持ちを、本やテキストの内容に代行させようとすると、決してうまくいかないでしょう。

 相手は決して、その本やテキストの内容を否定しているわけではありません。
 その内容ではなくて、相手はあなたのそんな意図を見抜き、その“意図”に反発したくなったり、不快感を覚えるのです。

「相手と私」とが緊張関係であればいっそう、「あんたの指図は受けたくない」という気持ちになるでしょう。
 
 カウンセリングは、相手がそれを求めているから成立するのです。
 相手がそれを求めていなければ、どんなに良いものであっても、相手の心には届かないでしょう。
 
 もしあなたが、それでもあなたが仕入れてきた情報を、相手に教えたいと思うのであれば、それは教えるのではなく、「あなた自身が実行すること」です。

 だから、あなたが「私を愛すること」を相手に伝えたいと思うのであれば、まず「あなた自身が自分を愛する」ことです。
 あなたが相手に「断る力を身につけてほしい」と望むのであれば、
「あなた自身が、その人に断ってみせる」ことです。