プラス場面を繰り返さない不思議

 私の思いに反して、「しつこい怒りが消えてなくなる本」(すばる舎刊)の売れ行きが良いようで、筆者としての責任を果たせたと安堵しています。“しつこい”というのが、キーワードになっているようです。

 単に怒りだけでなく、“しつこい”という言葉に読者の方々が反応するということは、自分自身の感情に焦点を当てている人たちが増えてきたということであるのでしょう。
 少し前までは、こんなタイトルは、それこそ重く感じるので無意識に避けたくて、敬遠されていたタイトルではないのでしょうか。

 自分中心心理学は、とりわけ“実感”を重視しています。それは、感情や感覚の実感が、根底の意識をあらわすからです。

 だから、当初から「感情」ということをメインに打ち出していたのですが、出版社は、“しつこい怒り”どころか「感情」という言葉を前面に打ち出すことすら難色を示していました。
「思いに反して」と思ったのは、そんな過去のことが頭をよぎっていたからでした。

 急激な時代の変化が、自分の問題に向き合わせているのでしょう。
 ですから私はむしろ、それぞれが自分の内側に向き始めたという点においては、好ましく受け止めています。                                           
 意識が自分に向かったときに、初めて気づくことがあります。
 例えば、どうして人は、マイナスの場面を繰り返し思い出してしまうのだろう。
 もちろんそれは、本に書いているように、その感情を解消していないからではあるのですが、マイナスの場面を繰り返し思い出しては、それを“しつこい怒り”にしています。
 しつこい焦り。しつこい不安もしかり。

 としたら、その反対があってもいいはずです。
 その反対とは……。

 どうして人は、“繰り返しプラスの場面を思い出す”ことをしないのだろうか。そんなことを考えたことはありませんか。

 同書のリード見出しのように「あのとき。あのこと。あの人。あの一言」といったふうに、マイナス感情を引き起こすことは何度も何度も繰り返し思い出すのに、プラス感情を引き起こすことは、さらりと流れてしまっている。改めて自分を振り返ると、そう思いませんか?

 改めて考えると、「えっ? プラス感情なんて、あったっけ?」と、なかなか思い出せない人もいるかも知れません。

 例えば、
 絵画や芸術品を何度も眺めては、その完成度の高さに感動する。
 好きなスターの写真や動画を何度も眺めては幸せ気分に浸る。
 お金が貯まった通帳を、何度も何度も繰り返し眺めては、満足する。
 宝石の輝きとその美しさに、何度も何度も眺めてはうっとりとする。
 という経験はありませんか。

 こんな大きなことではなくても、もっとささやかな場面で、自分が嬉しかったり楽しかったり幸せを感じた場面を「何度も何度も思い出しては、そのプラス気分に浸る」ことがあってもいいはずです。

 プラス感情の「あのとき。あのこと。あの人。あの一言」が何度も何度も繰り返し蘇る。
 これは、自覚してレッスンすればできることです。

 例えば手前味噌ですが……。
 すばる舎より「しつこい怒りが消えてなくなる本」が発刊されました。
 かなり売れ行きがよく、みなさまのお力添えがあってのことだと感謝いたします。

 こんなふうに私が書いているとき、「好評なのを嬉しく思う自分」を自覚しています。

 こんなことをお知らせしているとき、「自分のやりたいことが、こんな形で結実してよかったなあ」などと、自分自身が幸せ気分に浸っています。

 未来においても、このときのことを何度も何度も繰り返し思い出せば、幸せ気分に浸ることができるでしょう。

 こんなふうに、自分の中に“しつこい怒り”を蓄積させることができると同様に、自分の中に“幸せ気分の循環”回路を育てることもできるのです。