いますぐに変わりたい治りたい 1

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 いまの状態からすぐ抜け出したい。すぐに楽になりたい。すぐに、変わりたい。そんなふうに思う人は、いま、とてもつらい状態だと思います。

 つらいからこそ、自分が変わりたいというよりは、
「誰かが私を救ってほしい、誰かが私の手を引いてほしい」
 シンデレラのように、一夜明けると世界が一変している。そんな世界を「誰かが、自分にもたらしてほしい」というふうに渇望しています。

 赤ちゃんのように、母親や父親の愛情で満たされたい。愛情で満たされたら、どんなに幸せだろう。どんなに楽だろう。どんなに苦しまなくてすむだろう、といったイメージの世界を想像しては、それを望んでいるのかもしれません。

 けれども、それは「赤ちゃんでなければ無理」でしょう。

 どこが無理なのでしょうか。
 例えば、赤ちゃんは、母親があやせば、無邪気に笑います。
 楽しい光景を見れば、自然に楽しいという表情をします。
 嬉しかったら、素直に嬉しがります。

 けれども「すぐ変わりたい」と望む人は、「苦しいから、すぐに変わりたい。すぐ誰かに愛されて、すぐに愛でいっぱいに満たされたい」と欲求しながらも、心の中は、それが得られない欠乏感や渇望感で満たされています。

 そんな欠乏感や渇望感で満たされているので、赤ちゃんとは、ここからすでに前提条件が異なっているのです。

 例えば、誰かが母親のように、親切にしてくれました。
 赤ちゃんでしたら、嬉しくて満面の笑みを浮かべます。
 けれども、欠乏感や渇望感でいっぱいになっている人は、「すぐに嬉しくて笑う」ようなことはしません。

「親切にしてくれるのは、何か魂胆があるだろう」
 と不審に勘繰ったり、
「それぐらいの優しさで、私が満足するとでも思っているのか」
 と、その親切を否定するかもしれません。
「私が望んでいるのは、そんな10%ぐらいの親切じゃなくて、100%なんだよ」
 と腹を立てているかもしれません。

「すぐに、すぐに」と思う人は、すでにその親子関係も、マイナスの関係が築かれている可能性が高いでしょう。
 そのために、親が愛情を注げば、赤ちゃんだったら無邪気に幸福そうな笑顔を返すところでも、
「私を傷つけたくせに。そんなことぐらいで、私の心が癒せると思っているのか」
 などと、心の中で否定したり、拒否したりしているでしょう。

 つまり、どんなに心の中で自分が愛を渇望していても、それを受け入れる土台が異なっているために、「愛されたらすぐにすぐに幸せになる。すぐに満足する」ということにはならないのです。

 ここの違いを自覚しておく必要があるでしょう。

 ですから、例えば「親に愛されたい」と望むのであれば、尚更、時間をかけて、お互いに、育て合う長い時間が必要だということを自覚して、少しずつお互いに変わりあう努力しようという決意が大事です。

 あるいは、「愛されることを諦めている」ために、誰かに愛されても、それを感じられない人も少なくありません。

 誰かが愛してくれても、「嬉しい、ありがとう」という気持ちがなければ、どんなに誰かが愛してくれたとしても、なお「今すぐこんな苦しい状況から抜け出したい。誰か救ってほしい」などと、虚しい欲求をつづけるだけとなるでしょう。

 もしそうであるなら、プラスの実感を感じる感じ方の感度を高めていくレッスンも必要でしょう。 (つづく)