「いま、すぐ」をあきらめる 2

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 カウンセリングやセミナーを受けてすぐに変わる人と、そうでない人がいます。

 その違いは、どこにあるでしょうか。

 悩んでいる人は、過去と未来に囚われていて、「いま」を生きることができないでいます。

 過ぎた過去に囚われている人は、過去の出来事を思い出しては、
「あのとき、ああすればよかったのに」
「あのとき、どうして、ああすることができなかったんだろう」
 などと悔やんだりしています。

 未来について悩んでいる人は、まだやってこない未来を否定的に予測しては、
「ああなったら、どうしよう」
「こうなったら、どうしよう」
 と、恐れたり不安がったりしています。

 未来に起こることは、決して、否定的なことばかりではありません。
 肯定的なこともあります。
 ですが、未来に囚われている人は、否定的な予測ばかりしています。

 セミナーやカウンセリングを受けて、すぐに変わっていく人は、「いま」に焦点を当てることができるようになっていく人です。

 自分中心心理学は、頭で理解するよりも、体験的な“実感”を重視しています。

 この“実感”が、「いまに生きる」ということだからです。

 例えば、いま、熱いお茶を飲んでいるとき、そのお茶の香りや味や熱さを感じているとき、「いま、それを感じている自分」がいます。
 これが「いまを生きる」ということです。

 思考やイメージは、すぐに「過去や未来」に飛びます。
 思考やイメージ−に囚われていては、「現在」を生きることができません。

 感情や感覚を“実感している”とき、「現在」を生きています。

 過去や未来に囚われてしまう「思考の牢獄」から抜け出すには、どれだけ「いま」を実感できるかどうかが、キーポイントです。

 ところが悩んでいる人は、いまを実感しようとしても、すぐに思考に囚われ始めて、気がつくと思考の牢獄の中にもどっています。

 ですから「いま」に居続けるには、繰り返しのレッスンが必要です。

「過去と未来」と「現在」との間を行き戻りしつつ、だんだん「現在」にいる時間を長くしていく。これもトレーニングです。

 私の本を読んで、
「文字を読むのと、声を出して読むのとでは、こんなに違うんだって、びっくりしました」
 という人がいました。

 そうなのです。
 声を出すと、感情に響きます。
 思考の牢獄でもがいている人ほど、声に出して、感情に響かせほしいものです。
 声を出したとき感情に響く自分の声を “感じている”ときは、「いま」に焦点が当たっています。

 ところが、「思考の牢獄」に囚われている人にとって、こんなふうに「いま」に焦点を当てて“実感する”ということが、困難でもあるのです。

 だから「いま、すぐ」をあきらめて、「少しずつ」と決意してほしいのです。 (おわり)