感情を置き忘れてきた親たち

 学研から「母と娘の『しんどい関係』を見直す本」を発刊しています。

 私はこれまでたくさんの本を出していますが、不思議と親子関係にテーマを絞って書いた本はありませんでした。

 家庭環境や親子関係で起こっている出来事は、さまざまな悩みやトラブルの大元でもあるために、まだまだ書き足りないことも数々ありました。

 ただ、どんな問題であれ、基本は「自分中心」です。

 その核となるのは「感情」です。

 これまで、感情は「抑えるものだ。コントロールすべきだ」と言われてきました。社会通念では、未だそうでしょう。

 けれどもそうやって、自分の気持ちを抑えたり、我慢してしまうことが、トラブルが発生したり問題を大きくさせてしまう原因だとはっきりと断言できます。

 今回の「母、娘」の本は、まさに、それが問題となって、親子間で大きな歪みとなってあらわれていることをテーマとしています。

 他者のことばかりのために生きてきて、自分の感情を置き忘れてきてしまった母親たち。

 親のようになりたくない。自分の気持ちや感情を大事にしたい。けれど、そうすることを親が許さない。親が依存してくる。
 そして、自分自身もまた、親と同様にその方法を学んでいない娘たち。

 そんな親娘との葛藤と溝が形になっているのです。

 今回は「母娘」にテーマを絞ったのですが、ほんとうは、「親と息子」も根っこは同じです。

 つくづく、中高年齢の方々の「親」という立場に人たちが、いかに自分の気持ちや感情を無視して生きてきたか。

 話をすればするほど、
「自分の気持ちなんて。そんなこと、考えたこともありません」
 といった答えが返ってきたりして、ため息とともに切なくなります。

「いまの気持ち、いまの感情は」と尋ねても、通用しません。

 相手の心も、もちろん、自分の心も感じ取れない。
 それがいま、非常に大きな問題となっているのです。

 自分中心心理学は「いまに生きる」心理学です。

 ですから、私が意味するところの「感情」も、「いまの感情」ということです。

 多くの人が認識している感情というのは、過去の出来事を思い出してあれこれと考え、その思考が生み出した感情で苦しむ。あるいは、未来のことを思いわずらって、不安や焦りや恐れに駆られる、といったふうに「いまの感情」というよりは、「過去や未来に囚われてしまうために生じる感情」ということができるでしょう。

 繰り返しますが、自分中心心理学で言うところの感情というのは、「いまの感情」です。

 この「いまの感情」に注目すると、自分が見えてきます。

 つまり、自分に起こっている問題の答えは、すでに、「いまの感情」の中に隠れているのです。
 その隠れている答えを見つけ出すには、自分自身に注目するしかありません。

 なぜなら、すべてが自分のためなのですから。
 だから、自分中心なのです。

 ですから、感情を置き忘れてきてしまった人たちは、この「いま」の感情に気づくことが先決です。
 置き忘れてきてしまった感情を取りもどすためにも、「いま」の感情に気づく自分を育てることが必須です。

 私は長い間心理療法に携わっていますが、そんなプロセスの中で、最初は気づく。実験し実行する。そうすることで、以前は疑問形で言っていたことが、いまは確信を持って言えるというふうに、日々、進歩している自分を実感します。

 まさに私自身が、自分中心になって、日々そのプロセスを見届け、実感し味わう毎日です。
 そしてまた、このプロセスこそが「生きる意味」ではないかと思うこの頃です。