本で伝わらないこと

 本で最も伝えにくいのは、自分がどんな口調や態度、表情で言っているかということです。

“自分を感じる”ことが出来る人であれば、すぐにわかります。なぜなら、自分が「どんな気持ちでそれを言っているのか」。
 これに気づくだけでいいからです。
 自分が感じた通りに、それが相手に伝わっています。

 本の文中で、私が伝えたいことがあっても、それをどう受け止めるかは、一重に、その人の受け止め方にかかっています。

 例えば、会話の中で「私を認める。相手を認める」ということで、私がある親に、
「相手の意志を認めることが大事ですよ」
 と言ったとします。

 すると即座に親は、
「ええ。だから私は、子供たちの選択に任せていますよ。あんた達で決めてよって」
 そう答えたとします。

 けれどもこのとき、「私の思う“子供に任せる”」ことと、「親が解釈している“子供に任せる”」ということとの間に、大きなギャップがあるとしたらどうでしょうか。

 私は普段から、常に「相手を認めることが大事だ」ということを伝えたいとします。
 けれども親の「子供に任せている」というのは、普段は支配的な態度で指示したり命令したり、干渉したりしています。
 当然、争いが起こります。その果てに、
「じゃあ、もう、あなたたちの勝手にしたらいいじゃないの」
 と吐き捨てました。

 相手は、これを「子供に任せています」と解釈していたりするのです。

 こんなふうに文字や言葉だけでは、わかりません。

 そのとき親は、子供に対して、どんな言い方をしたのか。
「ぶっきらぼうに。面倒臭そうに。怒って」かも知れません。

 このとき私は、どんな場面で、どんな態度、表情、口調で言ったかを親に理解してもらうためにどうするか?

 手っ取り早いのは、「気持ちのいい言い方」を実演することです。

 まるで一人芝居のように……、
親「あなたは、どう思うの?」
子「……」
(相手が沈黙していれば、自分のほうも黙って、相手が発言するのを待つ時間が大事なんですよ。)
 子供が自分の気持ちを話します。
親「そうか、あなたは、そんな気持ちだったんだね。わかった……。
 あなたがそんな気持ちでいることがわかって、私、うれしいな。
 言ってくれて、ありがとう」
 と言ったふうに。

 そして親に言うのです。
「子供さんと、こんな感じで会話したこと、ありますか?」

 私のその口調、態度、表現の仕方を聞いてはじめて、親は、
「ありません」
 と理解できるのです。