どうして感情的に反応してしまうのか

Aさんは普通の口調で、Bさんに、
「こんな感じでやるとしたら、できるかなあ」
と、尋ねただけなのに、いきなり、
「そんなこと、できるわけないじゃないか!」
と怒鳴り返されたことがある。

Aさんとしては、提案しているだけだから、
怒鳴られる覚えはまったくない。

もし、自分が怒鳴れる原因を作ったとしたら、もしかしたら、
相手が不機嫌だということに気づかなかった、
ということぐらいしか思い当りない。

思い返すと、Bさんは、過去にもいきなり怒り出したことがある。
頭の中で何を考えているか、それは当人しかわからない。
Aさんの立場としては、いきなり怒鳴られたというふうにしか、とれない。

このとき仮にBさんが不機嫌だったとしても、その理由が、
必ずしも、Aさんにあったとは限らない。
別の理由で不機嫌になっていて、
それをAさんにぶつけただけかもしれない。

Bさんへのオファーが不成立だったので、AさんはCさんに依頼した。
Cさんは、快諾してくれて、Bさんとのようなことは起こらなかった。

そのとき、Cさんが、Bさんとメールでやりとりしていたことが
あって、その中で、Aさんに怒鳴ったことに対して、
Bさんが、どういう認識で受け止めていたかがわかった。

なんと、Bさんは、
「Aさんが感情的になって、話が進まなかった」
と、Cさんに伝えていたのだ。

怒鳴っている当人は、自分が怒鳴っていることに気づいていない?

日頃から、険しい表情をして、
怒ったような口調で話すのが当たり前になっている人は、
自分がそのとき「怒鳴った」という認識をもっていない人が少なくない。

似たような話で、私も学生のころ、写真館で写真を撮るとき
「緊張しないで、リラックスして」と言われたことがある。

自分では、緊張しているつもりではないけれども、
相手に緊張していると映ったとしたら、緊張していたのだろう。

どうして気づかなかったのだろうか。

それは、一つは、普段から緊張しているので、
それが当たり前になっているからなのかもしれない。

身体感覚として、緊張とリラックスの差がはっきりとわかっていたら、
緊張していると自覚できるだろうが、
その差を感じる経験が乏しければ、気づけない。

また、自分が緊張しているかリラックスしているのか、それは、
自分の「感じ方」のほうに焦点が当たっていないと
わからないことだ。

こんなふうに、自分がどんな状態でいるかに気づいていない人は、
自分のことがわからない。

先の例で言えば、確かにAさんは、Bさんの予想だにしない反応に、
Aさん自身も、咄嗟に感情的な言い方で返してしまった。

発信源は、Bさんだ。

けれども、Bさんに見えるのは、「感情的になったAさん」だ。

だからBさんは、Cさんには「Aさんが感情的になった」
と伝えたのだった。

あたかも自分は適切だったけれども、相手のほうが勝手に怒った、と。

自分を感じることができない人は、往々にして、
こんなふうに「悪いのは、相手である」かのように見える。

もちろん、Bさんは「自分が最初に怒鳴った」ことを自覚していて、
Cさんには「自分のほうが先に怒鳴ってしまったこと」を
隠しておきたかっただけなのかもしれない。

それはともかくも、どうしてBさんは、
Aさんの何の変哲もないオファーに「感情的な反応」をしたのか。

それは、「自分がバカにされた」ように感じたからだった。

Bさんは、Aさんに尋ねられたとき、すぐに「無理だ」と感じた。

そう感じただけだったら、別に怒ることはないのだが、
そのときBさんには、こんなふうに聞こえていた。
「なんだ、あなたは、こんなことも、できないの。
あなたって、能力がない人ね」

だから、感情的になった……。

もちろん、それは、Aさんが言っているのではなく、Bさんが、
自分に言っているのである。